家賃滞納の入居者が夜逃げ…部屋を整理したら訴えられた理由【弁護士が解説】

賃貸不動産経営のトラブルの1つに、入居者が家賃滞納を続けて「ある日突然、夜逃げしてまった」というものがあります。このようなケースでは、部屋に家具やゴミなどの残置物があることが多いです。今回は、夜逃げした家賃滞納者の部屋を整理する際に、大家さんが気をつけたいポイントについて弁護士の北村亮典先生が解説します。

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賃貸不動産経営のトラブルの1つに、入居者が家賃滞納を続けて「ある日突然、夜逃げしてまった」というものがあります。このようなケースでは、部屋に家具やゴミなどの残置物があることが多いです。今回は、夜逃げした家賃滞納者の部屋を整理する際に、大家さんが気をつけたいポイントについて弁護士の北村亮典先生が解説します。

夜逃げした入居者の部屋を整理してはいけない?自力救済禁止の原則とは

1つ目のポイントは、家賃滞納者の部屋に勝手に入ったり、夜逃げした入居者の部屋を勝手に整理したりしてはいけない点です。 夜逃げした家賃滞納者の部屋を整理してはいけない理由は、日本の法律には自力救済禁止の原則があるためです。 家賃滞納者の残置物の処分は、法律の手続きによらなければ、実力行使をもって権利を実現することができません。ですから、物件の所有者だったとしても、入居者の残置物を勝手に処分することができないのです。 これらの行為を行ってしまった場合、民事上や刑事上の責任を問われる可能性もあり、注意が必要です。民事上では、不法行為による損害賠償請求が、刑事上では、勝手に部屋に入ったことで住居侵入罪に該当するおそれがあります。

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入居者の承諾がない部屋の立ち入り

大家さんが勝手に入居者の部屋に立ち入り、残置物の処分や鍵の交換を行った場合、大家さん側が入居者に訴えられ、慰謝料を支払った裁判例もあります。 また、入居者が亡くなった場合であっても、その相続人に無断で勝手に立ち入り、残置物を処分することができないので注意が必要です。 ただし、入居者の部屋に雨漏りが発生しているケースでは、保存行為として大家さんが修理することができます。このような保存行為は、賃借人は拒むことができません。(民法606条2項)

残置物の処分

残置物の処分については、連帯保証人の協力が得られれば早期の解決が期待できます。しかし、協力が得られない場合は、賃貸借契約の解除を裁判所に訴え、建物明渡しの判決を取得してもなお明け渡しをしない場合は、強制執行の手続きを行わなければなりません。 このように、家賃滞納で夜逃げに発展した場合は、裁判所への手続きが必要になります。とはいえ、大家さんがすべてを行うのは現実的ではありませんので、弁護士に依頼することをおすすめします。

大家さんが気をつけたい「合鍵」関係のトラブル

2つ目のポイントは、夜逃げした家賃滞納者の部屋の鍵を交換してはいけないという点です。

鍵の交換や合鍵の使用

部屋に残置物がある状況では、入居者が戻ってくる可能性もゼロではありません。夜逃げの間に鍵の交換を行い、入居者が入れないようになった場合には、やはり、自力救済に該当してしまいます。 合鍵の使用も同様で、残置物の処分を行った場合は、住居侵入罪や窃盗罪等に問われる可能性もあります。 2016年には、入居者の家賃滞納を理由に玄関ドアに錠を取り付けて入れなくするなどした行為は「住居への立ち入りを強制的に遮断する行為」、家財処分は「窃盗罪・器物損壊罪に処せられるべき行為」にあたり、不法行為責任を免れないとして、家賃保証会社に賠償命令が下された裁判例もあります。

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賃貸借契約書に記載してあっても自力救済は認められない

家賃滞納などのトラブルを想定して、賃貸借契約書に「大家が居室に立ち入る必要がある場合、合鍵を借りて立ち入ることができる」「入居者が行方不明になった場合は、居室内の残置物を処分しても異議を述べない」などの特約を設けていた場合はどうでしょうか。 このような特約を予め設けているケースでも、公序良俗に反する契約として無効になる可能性が高いので、注意が必要です。どうしても部屋に立ち入る必要がある場合は、警察に相談し、安否確認として立会いを求めるのも1つの方法です。

滞納していた家賃にも時効がある?

最後のポイントは滞納していた家賃は、速やかに対応しなければ、5年間で消滅時効にかかってしまう点です。 入居者が夜逃げしていた場合の滞納家賃は、連帯保証人や家賃保証会社に請求すると、回収することができます。ただし、速やかに対応しなければ、5年間で消滅時効にかかってしまうため、時効の完成猶予及び更新を行う必要があります。 民法166条では、「債権者が権利行使することができることを知った時から5年間行使しないとき」「権利を行使することができる時から10年間行使しないとき」と規定されています。 ですから、この期間内に家賃保証会社と契約していなかったり、連帯保証人とも連絡が取れないかったりして、滞納家賃の回収が困難であったりする場合には、建物明渡と滞納家賃の請求訴訟を提起することで権利行使をしなければなりません。

まとめ

夜逃げした後に大家さんが家賃滞納者の部屋を勝手に立ち入ることは、自力救済禁止の原則に違反するので、残置物を勝手に処分することは認められません。このような行為は、入居者から訴えられるおそれもある等、民事上・刑事上の責任を負う可能性があります。 入居者が夜逃げしていた場合の滞納家賃は、連帯保証人や家賃保証会社に請求しましょう。ただし、速やかに対応しなければ、消滅時効にかかるので注意が必要です。 残置物が処分できず、滞納家賃を回収できない場合は、建物明渡等の訴訟を検討しましょう。裁判手続きは、弁護士に依頼することでスムーズに進めることができます。